これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

映画『むッつり右門捕物帖 鬼面屋敷』(1955年 東宝)

 

先日、神保町シアターにて没後40年嵐寛寿郎特集から山本嘉次郎監督『むッつり右門捕物帖  鬼面屋敷』を鑑賞。むっつりの次に来る言葉がスケベじゃない場合もあるんだな(?)。同心の近藤右門が岡っ引きの伝六を従え、江戸で発生した連続殺人事件の真相に迫る推理物の時代劇。いやー、大村千吉氏のアヒル口堪らんですねえ。アヒル口の帝王だな、彼は。 連続殺人事件を発端に、埋蔵金の謎を巡る壮絶なミステリーへと展開していくのだが、重厚で無口なアラカンと対照的に愉快で御喋りなキャラクター性のエノケンが物語に漂う緊迫感の中和剤として効果を発揮。加えて、右門と伝六コンビのライバル格として登場する同輩の与力・敬四郎(上田吉二郎氏)とその子分・松(大村千吉氏)がコメディ要素を助長。善玉をコミカルな演出で陽気に描いたからこそ、悪玉の陰鬱な雰囲気に支配された残酷非道な性質が一層妖しい輝きを放っていたのだろう。小杉義男氏の鋭い眼光が怖過ぎた。以下、粗筋と感想。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20210116014730j:plain↑ 新型コロナ感染防止対策万全、20時以降に終了する回は中止です。エノケンかわいいよエノケン(;´Д`)ハァハァ

 

江戸で殺人事件が続発した。同心の右門は岡っ引きの伝六と共に犯人捜査に出動。同時に事件を聞きつけた同輩の与力・敬四郎が子分の松を連れて町で聞き込み調査を始めた。殺害された被害者全員が大久保石見守に関係する者だった。石見守は黄金を秘蔵し謀反したとの容疑で御家断絶になっていた。体の傷跡から推測された犯人の特徴である「左利き」の持ち主を捜査する中、殺人現場近くの料亭で働く女将から事件当夜に酒癖の悪い不気味な浪人が立ち寄った情報を得た左門は、女将の養女・お鶴の御守り袋の紋章に目が留まった。その紋章は大久保家の家紋だった。更に、伝六が住む長屋の隣人、浪人・彦太夫が所持する印籠の紋章もお鶴と同じ大久保家の家紋だと発覚した。元家老だった彦太夫は、息子の小太郎と暮らしながら密かに姫君の行方を探していた。実は料亭で働いていたお鶴こそ、彦太夫が探す姫君であり、両者は右門の配慮によって面会を果たす。一方、伝六は料亭に現れた怪しい浪人・兵助が旗本・渡良瀬官兵衛の住処である鬼面屋敷に出入りしている事を突き止めた。官兵衛は埋蔵金を横取りしようと、黄金の在処が記された地図を探す為に大久保家に関係のある者を金で雇った兵助に殺害させていたのだ。遂に良太夫は渡良瀬一味に拉致され、やむを得ず地図に記された黄金の在処を掘り続けるが、埋蔵金は見当たらなかった。右門は真の悪党を目前にしていながら、公義の許可が下りず鬼門屋敷に立ち入る事すら許されない。そんな中、黄金を掘り当てなかった為に彦太夫は兵助に斬られた。瀕死の状態で右門の家に転がり込んだ良太夫は間もなく絶命した。憤慨した右門は鬼面屋敷を襲撃。父の仇に駆け付けた小太郎の助勢が加わり、渡良瀬一味は滅亡した。右門の活躍によって事件は解決、江戸の町に再び平和が訪れたのであった。

悍ましい鬼面屋敷の外観と不吉な影が蠢く不穏なオープニング。埋蔵金の謎を背景に江戸で起こった連続殺人事件を主軸としているが、笑いあり歌唱あり恋愛あり、娯楽性の高い作風。何と云っても、見事な刀捌きで次々に悪旗本の家来軍を斬り倒す右門の鬼面屋敷襲撃!緊迫した静寂の中で悪と睨み合う右門の鋭い眼差しと豪快な立ち回り。レパートリー豊富な殺陣。普段の静かで寡黙な姿とは一変、使命と正義に燃える内なる闘志が顕在化したクライマックスの右門の趣深い格好良さ。それにしても強過ぎた。何十人相手にほぼ右門が単独で全勝、ラスボスの悪旗本まで窮追したのだから強い、強過ぎる。彼こそ無自覚ギャップ萌えの体現。 対照的な伝六は喜劇に徹したギャグ要員として活躍。特にオンボロ長屋の壁穴を通して展開される家主との悪口合戦、悪旗本の一味に捕獲された際のユーモラスな振る舞いが印象に残る。ギャグと云えば、ライバル格である敬四郎と松も忘れてはならない重要なスパイス。左利きの犯人像を妄信するばかり失敗を繰り返す憎めない悪コンビである。物語の前半はコメディを織り交ぜながら安穏とした雰囲気の中で展開する中、如何にも殺人犯にしか見えない極悪人相の浪人の兵助が姿を現した瞬間、張り詰めた空気へと一転。小杉義男氏の異常な存在感に惹き込まれる。右門の恰好良さとは別種の魅力を持つ悪党だった。彼は相手に背を向けて振り返り様に一撃を与える居合術を得意としており、その動作で生じる傷が誤解を招いた結果、連続殺人事件の犯人が「左利き」だと誤認された経緯がある。権力を盾にした無力な旗本の官兵衛が愚昧なので一層、悪に忠実な精神が宿る兵助に魅了されたのであった。酒と女に溺れて金の為に人を斬る…あれだけ狂暴な人相で刀の様に攻撃的な目付きにも関わらず、笑うとめちゃくちゃ可愛いのは反則だろ。守りたい、あの笑顔。 結構呆気なく斬られて残念だった。(結論:右門が強過ぎた。)