これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

コダマプレス/『ミクロ人間』

 

外出自粛要請にストレス感じてる君へ。自邸でフォノシートを聞こう!1966年にコダマプレスより企画された「コダマ怪獣がいっぱい特集号」シリーズ(『前世紀怪獣大あばれ~ノア号決死の怪獣狩り』『宇宙怪獣大あばれ~ノア号!カエル人間撲滅せよ!』)の後に発行された「コダマぼうけんシリーズ」(全2作)の『ミクロ人間』に関して。

本作は、「少年サンデー」誌上で連載されていた絵物語『細菌人間』(文:筒井康隆先生、絵:小松崎茂先生)と、映画『ミクロ決死圏』(リチャード・フライシャー監督)を混成したSF編である。(本作の題名『ミクロ人間』は『細菌人間』と『ミクロ決死圏』の2タイトルから肖って考案されたのだろう。) 正式には、原作としてクレジットされているのは『細菌人間』ですが、アクアラングのデザインや脱出口の着想は『ミクロ決死圏』からの影響が大きいと思う。原作は未読の為、多くは語れないのだが、仄聞した所によると「人間がミクロ化して人体に潜航する」描写が魅力の『ミクロ決死圏』をオマージュした作品だとか。さて、『ミクロ人間』。以下、粗筋。突如、大音響と共にキヨシの庭に隕石が落ちた。隕石が落ちた穴から怪植物を発見したキヨシは、父に助けを求めた。謎の植物を攻撃しようと試みる父だったが、体に絡み付く植物に首を締め付けられて窮地に陥る。しかし、キヨシの火責めによって植物は焼却されたのであった。翌日、母に頼まれて庭に父を呼びに行くキヨシは、戸が半分開いたガレージでガソリンを飲み込む父を目撃。その異様な形相は、もはや父ではなかった。キヨシは必死に逃げ切ったが、父の事が心配で真夜中まで眠りに就けずに居た。そこへ父の足音が不気味に近付いてきた。目の前に現れた父の姿に殺気を感じたキヨシは、慌てて外を飛び出し、おじさんの元へと走った。おじさんは科学者である。キヨシから事情を聞いたおじさんは、追い掛けて来た父の口にクロロホルムを染み込ませたハンカチを押さえ付けて眠らせた。キヨシの父は、落下した隕石から出現した植物性の異星人に脳を侵略されてしまったのだった。キヨシは、父を救出する為には頭の中に潜む敵を撃滅すべく、おじさんが開発したマイクロ光線照射機で体を縮小。父の体内に入って脳を占領する敵と戦う事を決意した。目を覚ました父が求めた水のコップの中に紛れたキヨシは、父の体内へと潜入。順調に脳へと進行するキヨシだったが、途中でバクテリアの攻撃に衝突。装備していた溶菌素ピストルで立ち向かい、遂に目的の大脳で辿り着いた。大脳には、父の体を侵略する緑色の怪物がキヨシを待ち構えていた。博士が用意した薬で攻撃を試みるキヨシだったが、怪物には薬が効かない。危険に晒されたキヨシは、ナイフを取り出して怪物を切り裂いた。そして苦しむ怪物の傷口に向かって薬を発射。苦闘の末、怪物が息絶えた。脳内の大乱闘により、頭痛に悲鳴する父の目から零れ落ちる泪と共に、キヨシは体外へ脱出成功。逆マイクロ光線により等身大に戻ったキヨシは、侵略から解放された父に安堵の笑みを浮かべたのであった。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20200406004527j:plainf:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20200406004548j:plain↑ レーベルA面「おとうさんのあたまのなかにうちゅうじんがすみこんでしまった」B面「きよしはミクロかされておとうさんのからだのなかに入るのだ」けしからんな! アクアラングのデザインは『ミクロ決死圏』のスーツと殆ど同じ。

 

両面で約13分。隕石から始まる怪事件。侵略SFアクションと怪奇ミステリーが絶妙に融合した一作です。結論からすると、本作は地球人対侵略異星人の対決を描いた作品ですが、やはり核心は、マイクロ光線によってミクロ化された人間が人体へ潜入する一連の空想科学にある。比較論になるが、『ミクロ決死圏』は、医者や科学者達の大人だけで構成された世界です。人体に潜入する要因は、外部から治療困難な脳内出血を起こした患部にレーザー光線で治療を試みる医学的な理由だった。しかし、本作は主人公をターゲット層の少年に目線を揃えて、人体に潜入する理由付けを「患部の治療」ではなく「侵略者の退治」へと昇華した功績は偉大だ。加えて、他人ではない情が植え付いた近親者の人体を冒険する点に臨場性を覚える。未知なる怪生物との遭遇、保護者である父が、次第に敵対する物体へと変貌していく恐怖描写は、ある種見所となる人体潜入以上に魅惑的であり、筒井版『ミクロ決死圏』の特徴かも知れない。特に、父が密かにガソリンを飲み込み、キヨシの寝床に追い詰める一連の描写は前村先生による迫真の筆致の相俟って、実に緊迫した怪奇色の濃い場面に仕上がっている。(口からガソリン垂れ流しながら死んだ目でキヨシ君を見下ろす父が不気味過ぎて最高。) 理解し合って信用の度合いが強い程、肉親の豹変は虚しく、絶望的だ。結局、父の脳を侵略した植物性の異星人に関して詳細が語られる事はなかったのですが、一種の寄生虫的な生物だろうか。外傷を与える害敵よりも、内傷を与える害敵の方が遥かに恐ろしい。おじさんが準備した薬で撃退するつもりが一筋縄ではいかず、キヨシ君の知恵と勇気によるナイフ戦法で薬を投与したガードの固い怪物だった。『ミクロ決死圏』で、人体の内部に生存する抗体が「敵」として描かれている様に、一瞬ながら、外部から体内へ潜入したキヨシをウイルスと判断して出現したであろうバクテリアとの戦闘も熱い。風邪を引いて熱出して苦しい時に、自分の体内でこんな大戦争が勃発してると思うと今後めっちゃ愛おしいな、僕の体内。 筒井先生の構成力と着想を見事に具現化された前村先生の大胆な構図と鮮やかな色彩、そして世界観の規模を大いに広げたSE音の効果は絶大です。非常に細部迄リアリティを追求しており、音だけで人体内部の表現を深める事に成功しているのだ。父の体内に入った瞬間、音堪えぬ心臓の音が自分の心臓の鼓動と重なる感覚によって、まるで体内に潜入しているかの様な錯覚を覚える程の臨場感に痺れる。『ミクロ決死圏』は医療関係者による協力もあって、リアリティに富む描写が多い反面、何所か厳かで非現実的な印象を受けたが、本作は体内への潜入方法がフランク(単身だし、コップの水と一緒に食道から潜入したし)なのもあって、本作の方が親近感を抱いたな。ミクロ化60分以内の時間制限ないのも良いよね。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20200406004624j:plain↑ キヨシ君対植物性の異星怪物。怪奇とスリルの中に美意識を感じる挿絵です。触手に苦戦してるキヨシ君カワイーネ。