これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

映画『あすなろ物語』(1955年 東宝)

 

かなり久々にラピュタ阿佐ヶ谷へ。堀川弘通監督、映画『あすなろ物語』を観賞。堀川監督の記念すべき第一回監督作で、井上靖氏の原作を黒澤明氏が脚色した文芸映画です。控え目に云って、全年齢向けおねショタ映画。(俺得) 主人公・梶鮎太の姿を、少年の転換期と云える「小学生」(12歳)、「中学生」(15歳)、「高校生」(18歳)のそれぞれ異なる境遇の中で捉えて、異性に対する憧れや畏れ、葛藤を、冴子、雪枝、玲子の3人の女性から感受しながら成長していく過程をリリシズムで湛えた作品で、鮎太の成長に合わせて各時期異なった俳優を配役している。その為、各時期明確に場面が区切られるので、3部構成のオムニバス形式とも見受けられるが、終始1人の少年の魂に焦点を当て続けており、何者でもない少年が明日は檜の様に大きく成長しようと奮起する姿が誠実に貫かれている。鮎太の成長を捉えたのは、全て最終学年の時期。受験とは社会に入る為の作業であり、少年時代との決別を象徴する儀式。しかし、本作に於ける受験とは、亡き祖母が命を懸けて願った鮎太の大学進学に向けてのステップアップであり、決してネガティブに描かれていない。上述の通り、鮎太はそれぞれの時期に異なる境遇で別々の女性との出会いと別れを経験する。物語の冒頭、鮎太12歳。寒い冬の日。祖母の手1つで育てられた鮎太の元へ、祖母の妹の娘・冴子(18歳)が現れる。冴子は美しい娘であったが、奔放な行動が目立ち、女学校を退学させられて祖母の許へ引き取られてきた。冴子は鮎太に自分を「お姉さん」と呼ばせた。獰猛で気性の荒い不良として鮎太に振舞っている一方で、町の温泉宿に来ている胸を病む学生・加島へ密かに恋心を抱く繊細な少女であった。冴子は度々夜になると家を抜け出して夜中まで帰らない日が続く。或る日、夜中に目を覚ました鮎太は冴子に「どこへ行ってきたの」と尋ねると、耳元に口を寄せて「トオイトオイ山のオクデ フカイフカイ雪二ウズモレテ ツメタイツメタイ雪二ツツマレテ ネムッテシマウノ イツカ」と囁いた。間も無くして加島と冴子が深い雪山の中で心中した。鮎太の目は真っ直ぐ冴子の死体を見詰めていた。3年後、鮎太15歳。育ての親であった祖母が亡くなり、鮎太の身は溪林寺の住職の元に引き取られ、寺の娘・雪枝(20)と出会う。雪枝は、心も体も健康で快活な女性だった。鮎太は只管勤勉に励み、努力した。学校の成績も良かったが、鮎太の才能が気に入らない上級生から殴られ、鮎太は不登校になる。雪枝は寝込む鮎太に「勉強が出来るだけでは駄目、男はもっと強くならなくては」と言い聞かせた。それから雪枝に励まされながら、鮎太は唯一出来るスポーツ(?)鉄棒を繰り返し猛特訓。そして秋の運動会で、大車輪の優勝争いに見事勝利、上級生に勝ったのだ。時は流れ、雪枝の嫁入りが決まった。その雪枝の元へ、執拗に付き纏っている不良青年から呼び出しがあった。それを知った鮎太は、雪枝の代わりに夜の海岸へ向かい、不良青年と格闘。相手は鮎太の勢力に負けて退散していった。半ば意識を失ったかの様に横たわる鮎太の目の前に、雪枝が現れた。二人で横たわる夜の海辺。「僕はやっぱり翌檜だね」と呟く鮎太に対し、雪枝は「でも私、翌檜は好きよ。毎日檜になろうと考えているだけで立派だわ」と云い残し、静かに翌檜の歌を唄い出した。又3年後、鮎太18歳。桜が綺麗な春。東北の高校に進学した鮎太は、下宿先の家の女主人の娘・玲子(20)と出会う。家には、女中のとみ、他の下宿人である軍人の木原、医師の江見、教師の佐山、失業中の竹中が居た。初めて密接した大人の世界に狼狽える鮎太を玲子は揶揄いながらも親切にした。鮎太は、そんな天真爛漫で美しい成熟した玲子の魅力に惹かれて行った。やがて玲子に縁談が持ち上がる。玲子は、零落する家の為に気に染まぬ結婚をしなくてはならなかった。城跡の石垣の上に佇み、落胆する鮎太の下を、玲子が歩いて来た。声を掛けた鮎太に対して玲子は「私が本当に好きだったら、そこから飛んでご覧なさい」と意地悪そうに笑うと、鮎太は躊躇いもなく玲子の元へ石垣から飛び降り、崩れ落ちた。驚いて鮎太の元へ駆け寄った玲子は、鮎太に接吻をした。鮎太の本心を知った玲子は、別れるのが彼の為だと判断。玲子の心遣いにより、鮎太は家を立ち去る事になる。それが、どうする事も叶わない玲子なりの鮎太に対する愛情であった。別れの日、鮎太は「檜になりましょう」と誓い、玲子の元を去って行った。…登場する3人の女性の存在意義を考えると、やはり鮎太にとって、姉であり、母であり、恋人なのだろう。鮎太が出会った女性は皆揃って女王様気質と云いますか、「お姉さんと呼びなさい」とか「私が好きならそこから飛び降りなさい」とか、支配欲と服従心の塊って感じでSっ気の強い御姉様ばかりで萌えた。(萌えたのかよ) 女性陣に共通しているのは、全員表面ではとても活発で気丈な大人なのに、ふと隙間を除くと、センチメンタルな乙女心を抱いてる孤独な少女である事。冴子は、不良少女と呼ばれ生意気に振舞っていたが、直向きな恋に心中した繊細な少女だったし、雪枝は、逞しい姿勢と根性で落ちぶれ掛けた鮎太に勇気を与えた存在だったが、不良少年に執着されてどうにも出来ない感傷的な一面を持っていた。又、玲子も不幸せであった。八方美人で性格の歪んだ姿が憎らしくも愛らしい玲子は、気に染まらぬ結婚を家の将来と母の為に担い、誰もいない所で一人で涙を流す臆病な少女だった。そんな女性達と出会い、別れを経験した鮎太は何を思ったのか。3人の女性を通じて、鮎太は秘かに著しく成長した。第一に印象に残るのは、鮎太が女性に抱く感情の描写。12歳の頃、横に寝ている冴子の寝顔をじっと眺める眼差しは美しさ故か否や。15歳の頃、雪枝に纏わりつく不良少年を退治したのは、雪枝の為でもあり、自分の為でもあったのではないか。(雪枝を取られたくなかった) 夜の海辺で横たわる鮎太を抱きかかえようとする雪枝に対して「もう少しこのままでいたい」と要求する=雪枝とこのままずっと一緒に居たかったのではないのか。18歳の頃。衝動的な恋愛感情と言い包めてしまえばそうかも知れないが、例の飛び降りは危険を顧みず、相手に対する好意を証明している。孰れも恋愛と呼ぶにはまだ曖昧で些細な感情かも知れないが、そこに微かに芽生えるくすぐったい感情が愛なのか。孰れの女性とも、鮎太との間に絶妙に性的描写が仕込まれていますが、これを性の目覚めと呼ぶには、余りに神聖過ぎる表現の数々。例えば、冴子は寝床で耳元に囁く魅惑的な唇と目とか、雪枝は入浴で露出した肌とか(夜の海岸で鮎太の顔を覗き込んでるのも僕的にはちょっとドキドキしたけど)、玲子は問答無用の接吻…と云いたいとこだが、暗がりの中で秘め事発表会もだいぶスケベじゃねえか…!?、と云う具合に、鮎太の成長と共に進展している。鮎太の成長には、常に年上の女性が寄り添っていますが、鮎太が成長の過程で重きを置いている「翌檜信念」は、意外にも鮎太が12歳の頃出会った冴子の恋人・加島から得ている。「翌檜は、"檜になろう、明日は檜になろう"と毎日考えている木。しかし、翌檜は永久に檜にはなれない。」と。それから、鮎太は加島が残した「檜になろう」と云う言葉を胸に、「明日はなろう(あすなろう)」と常に努力を怠らない少年に成長した。翌檜の存在自体、明日への希望を抱きながら一生懸命に生きる少年の象徴と云いますか、瑞々しい印象を受けます。それにしても興味深いのは、恋に心中した冴子の年齢と鮎太が玲子に恋をした年齢がリンクする事。鮎太は、恋に死んだ冴子を知ってるから玲子に「私が好きなら飛び降りて」と云われた時に素直に従ったのだろうか。その時きっと12歳の頃には解らかなかったであろう「冴子が加島を想う気持ち」を鮎太は知ったのかも知れない。余談だが、僕は雪枝が一番好き。役者の根岸明美氏が持つ野生美の影響もあるが、一番母性を感じた存在。鮎太にとっても、最も多感な時期であったろうし、不登校に陥り、行き詰った時に勇気を与えた。不登校で家で寝込み、雪枝が説教している場面は少しばかし、甘え方を解っていない鮎太が、雪枝に甘えている様に見える。雪枝は「僕は翌檜だね」と卑下する鮎太に対して「檜になろうとする翌檜が好き」と鮎太の信念と姿勢を評価し、最後まで鮎太の味方だった。鮎太がノートに書いていた翌檜の歌を勝手に雪枝が読み上げて、鮎太が怒って雪枝追い掛け回すシーンの雪枝の小悪魔キュートな笑顔ったらもう……(天を仰ぐ) シューベルト菩提樹に乗せて披露された「あすなろの唄」は、若さ溢れる力強さとは裏腹に哀愁が漂う。20代も半ばに差し掛かった僕でも、薄々解ってるんだ。翌檜はきっと、所詮翌檜。檜になりたいと願いながら、永遠に檜にはなれない哀しみを背負って生きていくのだと。鮎太は、最後まで前向きに生きて行きますが、明るく笑っている印象よりも、鬱屈とした悲しい表情が印象に残っている。もしかしたら、翌檜の残酷な運命を予見していたのかも知れないね。

 

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" あすなろ " の歌

檜によく似た 翌檜の木は
来る日も来る日も 思い続ける
明日こそ明日こそ 檜になろう
あすなろ あすなろ
あすなろう あすなろう

遠い遠い 山の奥で
冷たい冷たい 雪の夜
檜になった 夢を見た
あすなろ あすなろ
あすなろう あすなろう

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20200208220526j:plain↑ 鮎太役は、久保賢君(12歳役)、伊東隆君(15歳役)、久保明様(18歳役)。女性陣、久我美子氏(玲子)、岡田茉莉子氏(冴子)、根岸明美様(雪枝)。久保賢君は、久保明様の実弟。(横顔だけ似てた) 伊東隆君は、一般公募1200人から選ばれた幸運の中学生!