これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

山浦弘靖氏の『ウルトラQ』未制作プロットに関して

 

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僕は『ウルトラQ』が制作された高度経済成長期と、オリンピックに向けて再開発が進行する現在と「大きく東京が変化していく」2つの時代が度々リンクして嬉しくなる。オリンピックは全然愉しみではない。 激動し変遷する東京に対して、僅かな高揚と物寂しさを抱えながら『ウルトラQ』の舞台を擬似体験してるかの様で実に愉快なのだ。さて、山浦弘靖氏の『ウルトラQ』未制作プロット「紀元前二十世紀の恋人」「題未定」(地底獣マウサー)の2本について。山浦氏が『ウルトラQ』の中で手掛けた脚本は「206便消滅す」「海底原人ラゴン」「地底超特急西へ」の3本、孰れも共作である。『UNBALANCE』版「206便消滅す」は、山浦氏単独作だが、遡れば始祖である『WoO』の脚本「大噴火」「凍結アメーバ」(共作)の執筆も手掛けている。前述の未制作プロット2本は、『ウルトラQ』怪獣アイデア表(「ウルトラQ・テーマの部分」)の記録によって以前から周知されている「ケムラーの逆襲」とは異なり、近年山浦氏の別荘から発見された未発表のプロット。掲載元は、今はなき洋泉社の「特撮秘宝vol.8」(2018年9月発行)。プロットの執筆時期は、完成台本の決定稿の印刷時期や市川ノートの記録から、1964年の暮れ~1965年の3月迄の間だと白石雅彦氏が推測している。丁度、SF怪奇路線の『UNBALANCE』から怪獣路線の『ウルトラQ』に転換するタイミングで執筆された未制作プロット2本は、脚本化に至らなかったものの路線遷移が窺える貴重な『ウルトラQ』のプロットとして見逃せない存在だ。先ずは、「紀元前二十世の恋人」、粗筋。由利子は恐ろしい夢を見た。醜悪なゼリー状の怪物が、自分に恋を囁いている。由利子は必死になって逃げた。危うく追い詰められた瞬間、目が覚めた。翌日、東京の或るデパートで開催されている古代エジプトのカルメ―ン王展の取材に来た由利子は、絶世の美男子と謳われたカルメ―ン王の立像の美貌に心を奪われた。一方で、盗賊団の寺岡がカルメ―ン王のピラミッドから発掘された秘宝の数々を狙っている。その夜、展示場で事件発生。突如カルメ―ン王の立像が動き出し、警備員を倒して姿を消したのだ。事後、秘宝を盗みに現れた寺岡とその子分達が宝石を盗みに出現するが、警報装置が作動。慌てて外に逃げ出した一同は、偶然車で通り掛かった淳を脅迫して、淳のアパートに一時身を潜める事に。その頃、由利子は自身のアパートで一平と共に取材写真を現像していた。そこへ突然カルメ―ン王の立像が出現。カルメ―ン王は、一平を投げ飛ばすと由利子を攫って姿を消した。正気に戻った一平は、110番に連絡したが、由利子の行方は皆目解らなかった。それもその筈、連れ去られた由利子は、東京タワーの天辺近くの鉄鋼の上に寝かされていたのだ。由利子はカルメ―ン王の冷たく光る眼に見降ろされながら、自分の最期を感じた。しかし、カルメ―ン王は由利子に自分の着ていたガウンを着せたり、得体の知れぬ食物を取り出して食べさせ様としたり、明らかな好意を示した。一方由利子は、幾ら美男子とは云え、ミイラの化身であるカルメ―ンに対する恐怖が増幅するばかりだった。そこでカルメ―ンは由利子に宝石を与えようと考えた。由利子を鉄鋼の上に残して姿を消すと、自身にしか解らない宝石が奏でる音を頼りに淳のアパートを探り出し、寺岡達から宝石を奪って立ち去った。急いでカルメ―ンの後を追った淳は、カルメ―ンが東京タワーに登るのを目撃し、由利子の居場所が東京タワーだと確信。淳の急報により、警官隊が東京タワーを包囲。淳と一平は意を決して由利子の元へと東京タワーを登って行く。カルメ―ンは由利子に宝石を差し出し、自分を愛する様に哀願した。しかし、由利子は助けにやって来た淳の元へと去った。怒ったカルメ―ンの体から、由利子が夢で見たゼリー状の醜悪な怪物が出現した。怪物は淳に襲い掛かった。淳は苦心の末、高圧電流で怪物を焼き殺した。…古代エジプトの神聖な舞台に、醜悪な怪物=異形者の恋心と葛藤に盗賊の事件を絡めた怪奇色の強い一編で、怪獣未出演な点を取っても『UNBALANCE』的。第一、主役の怪物が実在しない架空の物体で「ゼリー状の醜悪な怪物」と、表現されており不明瞭。液体人間みたいな感じかな。内容も異形者が美女に恋をして、愛を哀願したり嫉妬心を露出したり複雑な恋愛事情が描かれています。不明瞭な醜悪怪物が、偽りの完全な美を纏ってでも恋を成し遂げようとしたが、由利子の内心は「美なる故に、返って恐怖」だった。人間は美醜に囚われている。しかし、美の概念は非常に曖昧である。そして、美と醜は紙一重だ。由利子は、誤魔化しの美に真心を感じなかったのだろう。所詮、内包された魂胆と云うものは必ず外見に現れる。もしかしたら怪物が囁く愛は、捕食の建前だったのかも知れない。仮に怪物が純粋な愛を由利子に向けていたのだとすれば実に悲劇だ。虚像の美に隠れても尚、由利子に愛を哀願した怪物を想うと、異形者の悲しみや絶望に打ち拉がれる。本作の大舞台として登場する東京タワーは「ケムラーの逆襲」でも登場している。東京タワーは都会の象徴だ。蓑虫のケムラーは、物語の過程で次郎くんが創造した怪鳥に昇華する。「恐怖のルート87」に登場する高原竜ヒドラと重なる怪獣ですね。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20200201060157j:plain↑ "「紀元前二十世紀の恋人」が脚本化されて撮影していたら"を妄想しながら東京タワーの特別展望台(250m)へ行きました。カルメ―ン王と淳ちゃんが天辺近く登る際はきっと階段だろうな。人がゴミのよ(以下略)

 

次、「題未定」。無題じゃない、題未定。「地底超特急西へ」の下書きとも呼べる貴重な一作。前者の不明瞭な怪物とは異なり、本作では「地底獣マウサー」と云う、地底に住む地底人が登場。仮にマウサーが怪獣ならば、『UNBALANCE』の精神を念頭に置いた怪獣路線とも云える内容だ。マウサーの住居は深層地底であり、土の中の養分を食物として生きる等、生態的特徴も具体的に描出されている。本作も舞台は東京。そして地下鉄が多くを占める。山浦氏自身鉄道が好きで、地下鉄に関する都市伝説から想起した一作だそうだ。以下、粗筋。大都市東京の交通難を解決すべく、地下鉄工事は急速に進められていた。その工事現場で地面を掘っていた工夫が、突如足元に開いた穴へ落ち込む奇怪な事件が起こった。正体不明の穴の深さは無限と云っても良い程に深く、穴の内壁から数本の獣の毛に似た体毛が発見された事から、この穴は「或る種の生物の通路」だと推定された。そこで、科学者を加えた救助隊が直ちに穴へ降りる事に成った。地下数10mの処で地底に達したが、そこからまるでモグラかアリの穴の様なトンネル状の穴が幾本も分れている。困惑する科学者と救助隊の耳に突然、異様な鳴き声が聞こえて来た。ハッとする一同の前に姿を現したのは、人間とも獣とも付かぬ一頭の怪物だった。怪物は忽ち救助隊を襲った。その頃、由利子は友人のさゆりと共に同窓会を終え、車で迎えに来ていた淳と一平と共に例の事件現場へと向かった。さゆりは、新型観光バスのガイドとして新東京の紹介に活躍するバスガールである。一方、彼女は健一と云う地下鉄の駅の靴磨きに手を引かれ、自宅に帰って行った。淳達が駆け付けた事件現場では、無惨にも体を噛み砕かれた救助隊の死体が上げられている最中だった。調査団は、本格的な調査は明朝に開始する事にして、一旦強力な催眠ガスを穴の中へ投与して怪物を弱らせ様と試みた。しかし、催眠ガスに追われた怪物は、穴の行き止まりになっていたトンネルの内壁を破ってさゆりと健一が乗車する電車を襲った。健一は、脱線のショックで失神したさゆりを背負って逃げ様としたが、怪物は2人に迫っていた。勇敢にも仕事道具で戦う健一は、怪物に張り倒され、目を覚ましたさゆりは怪物から懸命に逃げ惑うが、無念にも捕まってしまう。怪物の不気味な姿が迫る中、さゆりは再び失神。鋭い歯の生えた大きな口を開けて、さゆりに喰いつこうとした怪物だったが、その目から次第に狂暴な色が消えた。怪物はさゆりの美しさに心を奪われたのであった。怪物はさゆりを抱くと、地下道へ去って行った。一方、正気に戻った健一は事故を聞きつけて現れた淳達と共に怪物に攫われたさゆりの捜索に出動した。総合警備対策本部が設置され、各路線と地上に現れる各出口、路線と路線との連絡口には厳重な警戒網がひかれた。その頃、さゆりは怪物と一緒に通風穴の下に居た。怪物の傍で、危険を感じながら脱出する手段を考えていた。さゆりはコンクリートを貪り食う怪物に向かって、自分も腹が空いているのだと身振りで示した。怪物はコンクリートや電線、ドブネズミを捕まえて与えたが、さゆりは「こんなものは食べられない」と放り投げた。仕方なく食物を探しに出かけた怪物の隙を見て、さゆりは通風穴の戸外へ脱出。そして国立競技場へ逃げ込んだ。しかし、追い掛けてきた怪物によって再び捕まってしまう。だが、その姿はスタジアムの照明塔に不審を抱き駆け付けてきた警官隊に発見され、怪物は包囲された。しかし、人質のさゆりを小脇に抱えた怪物に手出しならず、怪物は包囲を突破して渋谷方面に逃走。再び怪物が住居である穴に戻ると確信した淳は、穴に通じる地下鉄のトンネル及び通風穴全てに警戒網が引かれた。怪物は、中目黒のホームに姿を現した。怪物はレールを捥ぎ取ると、近くに張り込んでいた淳達を襲った。と、突然飛び出した健一が怪物の背後に廻るや、千枚遠しで怪物の目を突き刺した。健一を振り飛ばしてレールで叩き潰そうとした怪物に走り寄った淳は、健一の千枚通しを拾って逃げた。その際、千枚通しは怪物のもう片方の目に当たり、盲目になった怪物は狂った様にレールを振り回した。そのレールが高圧電線に触れて怪物は感電死した。やがて夜が明け、行方不明だったさゆりは、中目黒のホームに入ってきた地下鉄日比谷線の一番電車の車内で発見された。やがてさゆりは元気を取り戻し、怪物の穴は全て爆破されて埋められ、東京は何事も無かった様な朝を迎えたのであった。…怪物の出現により、知られざる地底のミステリーを題材に、前作の「異形者の恋心」に加えて、「少年の恋心」が描かれている。怪奇色の強い前作に比べると、少年の登場と一平君のコミカルなキャラクター性により、ややコメディが加味された。さゆりに対して、まだ恋と断言するには些細で不確かな淡い憧憬を抱く健一は、地下鉄の駅の靴磨き。『ウルトラQ』に於いて「靴磨きの少年」と云えば、紛れもなく「地底超特急西へ」に登場したイタチ少年を想起する。イタチ少年の原型と捉えても不自然では無い。迷路の様な東京の地下鉄を舞台にしたアイデアと、更なる深層部にロマンを抱いた山浦氏の純粋な冒険心、そして思春期の発芽、女性への憧れ。特に、健一少年が一平君を恋敵としていながら、淳ちゃんにさゆりを「取られたくない」と繊細なライバル心を吐露する描写が印象に残る。健一は、誰も気付かない間に、さゆりが淳に対して芽生え始めた恋心を見抜いていたのではないだろうか。女性は、好きな男性にしか見せない表情がある。(と思っている。) さゆりが一平君を見る目と淳ちゃんを見る目が明らかに違っていたのではないか。何より、健一にとってさゆりは母代わりだったのかも知れない。毎夜、仕事から帰宅するさゆりを酔漢から守っていながら、さゆりが健一の傍に居る事によって、孤独な健一を逆にさゆりが守っていたのだと思う。実際に脚本化されて映像になった際に、人間に限らず怪物をも魅了するさゆりのキャスティングを妄想したが、水野久美氏が適材だろうな。母性と云う点でも。実際に、東京の地下鉄は迷路だ。先頭のホームに立って、トンネルの奥底の吸い込まれそうな暗闇に恐怖を感じた事がある。この先が次の駅に繋がっていると解っていながらも、トンネル独特の閉塞感は不気味だ。さて、主役とも云える地底獣マウサーだが、勿論脚本化してないプロット止まりなのでデザインは存在しないが、ポイントとしては「身長2m」(M1号かな?)、「全身深い毛で覆われている」(M1号かな?)、「人間の様に二本足で歩き回る」(M1号かな?)、しかし「食人傾向がある(語弊)」(ガイラだ!) 以上を総合するとマウサーのデザインは、1号とガイラのハーフかな。(違う) 

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20200201142430j:plain↑ 「題未定」の舞台に成った場所を巡ったよ。作中で健一とさゆりは「銀座線の浅草行きの終電に乗り込む」場面があって、銀座駅に差し掛かる所でマウサーに襲われる。と成ると、気に成るのはさゆりと健一はどの駅から乗車したか?だ。さゆりは同窓会帰りだから、渋谷か新橋か?って事で結局新橋に行った。国立展示場は、さゆりがマウサーから逃げて辿り着いた場所。中目黒のホームはマウサーと健一少年の決戦の地。

 

「紀元前二十世紀の恋人」と「題未定」、共通して描かれているのは、異形の悲恋。そして何方も感電死。 マウサーは、地下工事の開発絡みから、静かに眠っていたマウサーを人間が起こしてしまった罪意識を感じたが、カルメ―ンに扮した醜悪ゼリーは存在が謎に終るので不可解極まりない。そして何より共通する舞台、東京。興味深いのは、ハイライトとも云える誘拐時は何方も日が暮れた夜である事。恐怖を煽るのには、日中より夜中の方が効果的なのもあるが、都会の夜中と云うのは、日中の喧騒から逃れた独特の静けさとロマンがある。女性を監禁するならば、もっと効率的な方法があっただろう。しかし、山浦氏は東京タワーの天辺近くや、通風穴の下など喧騒で穢れていない神聖なオアシスへ女性を連れ去ったのだ。異形の哀しみが残酷に描かれた反面、山浦氏が創り出すロマンチックな幻想に酔い痴れた二篇でした。特に「題未定」は、一平君のコミカルな魅力が120%惹き出されたプロットで脚本化に至らなかった事が本当に惜しいな。

 

 

 

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.8 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

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  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2018/09/18
  • メディア: ムック