これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

「ひる」と「バルンガ」

 

バルンガに関して。ロバートシェクリィの「ひる」を拝読したので、印象を諸々。

 

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僕が『ウルトラQ』に執着しているのは、紛れも無く一平くん及び西條様の存在が要因だと言い切っても過言ではありませんが、特別惹かれた作品が、人間の文明社会に対してのアンチテーゼを唱えた「バルンガ」でした。あらゆるエネルギーを吸収して巨大化する怪物が登場する虎見邦男氏の脚本を、野長瀬監督が社会派の視点を加えて改稿したと云う「バルンガ」は、ロバート・シェクリィの短編SF小説「THE LEECH (ひる)」が下敷きではないのか、と云う情報を目にして拝読したのですが、確かにほぼバルンガだな。昼じゃなくて、蛭。吸血するアイツの事です。"ひるは食糧を待っていた。数千年のあいだ、それは広漠たる宇宙をさまよいつづけた。意識もなく、なにをするともなく、かぞえきれぬ世紀にわたって、星と星とのあいだの空間に、時をすごしていた。最後に、それと知ることなく、太陽系に近づくと、生命をあたえる太陽の熱が、その、かたく乾いたからだをあたため、さらに、引力が作用した。そのうちの惑星のひとつ、地球がそれをひきつけた。"(原文ママ引用)と、生命体の起源から物語が始まる本作。以下、ザックリ粗筋。休暇中のマイクルズ教授の農場内に、鋤や土を吸収する奇妙な物体(ひる)が現れ、日に日に巨大化し、遂には敷地外の道路に飛び出してしまう。"ひる"が飛び出した道路が、軍用車が通行する軍の重要な通行路であった為に、オドネル将軍が率先してひるの処分を高唱し、原子爆弾を用いて破壊を試みた。が、しかし、原子爆弾の膨大なエネルギー即ち放射能さえも自身の食糧として、"ひる"の細胞は喜んで吸収し、更に成長を重ねた。政府が委嘱した科学者は、"ひる"に対して、「物質をエネルギーに換え、エネルギーを物質に転じるための機能を備えている」と言及しながらも、過去に事例が無い、謎の生命体の的確な対処法を知る由も無かった。マイクルズ教授は、純放射能物質を満載した宇宙船をリモートコントロールで操作して、"ひる"を太陽へと誘導し、衝突の果てに消滅させようと計画。モリアーティを始め6人の科学者と、オドネル将軍が見守る中、マイクルズ教授の計画は実行された。宇宙船に誘われた"ひる"は、順調に太陽へと誘導されていたが、突如、"ひる"のエネルギー吸収率や成長速度を計算していたモリアーティが進路の変更を要請。「"ひる"の著しい成長度に反して、進行速度が遅過ぎる為、吸収するエネルギーが膨大である事から、このまま順調に進行すれば、"ひる"が太陽を食い尽くしてしまう」…と。急遽、誘導していた宇宙船は進路を変更し、膨大なエネルギーを蓄えている太陽を諦め、目の前に居る食糧である宇宙船を追い続けた。太陽と衝突する危機を脱して安心するのも束の間、遂に、"ひる"が宇宙船を捕えた。瞬間、"ひる"は破裂。実は、マイクルズ教授の知らぬ間にオドネル将軍が宇宙船に水素爆弾を仕込み、接触した瞬間に爆発させたのだった。集結していた何百万の細胞が分離した"ひる"は、次なる食糧に出会う日を待ち焦がれ、無限の宇宙空間を漂い続けるのであった。……発表年を確認すると、1952年なので、確実に「バルンガ」より前に世に出た作品です。「宇宙から地球へ飛来しており、無限にエネルギーを吸収する超生命体である」と云う、怪物の出自や能力に関する事や、自然の脅威、社会風刺と云った、物語の核心に関しても、「バルンガ」非常に類似している。太陽が重要な御飯とか、完全一致です。"ひる"は、成長する過程で細胞が増加しており、謂わば細胞の集合体と云える存在。巨大化したバルンガは、「風船怪獣」だと作中で関デスクが呼称している様に風船状の怪物ですが、足の様な触覚と明滅する内臓(目?)の描写によって生物感が宿っており、不気味に蠢く様子は、止めどなく成長する"ひる"の密集した細胞を具現化している様ですね。正し、細胞の事を、『ウルトラQ』では「胞子」と表現しています。風船がキーなので、物語的にも「風船怪獣」の方が御似合いですが、「胞子怪獣」でも良いです。"バルンガ"は宇宙胞子であり、食糧の動力(エネルギー)を吸収して胞子が巨大化していて、"ひる"は、一つの細胞から、成長する過程の中で、新たな細胞が生じて巨大化する。食糧は、放射性物質や運動エネルギー他、土や金属と云った物体も吸収する。ニュアンスと云うか、構造が若干異なります。バルンガはエネルギーだけで、物体を溶かしたり削ったりはしないので、タチ悪いのは"ひる"だろうな。バルンガは、過去に地球に飛来した事例があったのを対照に、"ひる"は事例がなかった。いや、正しくは「惑星を一個食い潰した」壮大な経歴持ちですが(笑)、地球上で起こった現象ではありません。"ひる"の貪欲な性質やデータを人類が無知だった事を含めて、"ひる"は、"バルンガ"に増して絶望的な存在です。反対に、相違点を挙げるとするならば、登場人物の構成とエンディング(=胞子怪獣の末路)。「バルンガ」は何より、青野平義氏演じる奈良丸博士の逸材ぶりに限る。作中で「老人」とか呼ばれてますけど、当時の青野氏、あれで52歳ですよ。妙に説得力がある威厳と貫禄を持ち合わせいらっしゃる。もうバルンガが太陽を食うか、太陽がバルンガを食うか所の話では無くて、奈良丸博士がバルンガを食ってしまっていると云いますか。(爆) 「ひる」の主役は、人類学を専攻するマイクルズ教授…ではなくて、ひる絶対殺すマンのオドネル将軍でしょう。"ひる"に対して、異常な闘争心を燃やし、政府や科学者に対しては、権高な態度で皮肉を漏らす、社会風刺を象徴した重要人物である。実際、実力と執着で"ひる"に止めを刺したのは、オドネル将軍でした。"本来の食物"だと云う恒星エネルギーを放出した(人口)太陽に歩み出して終わる「バルンガ」と同じく、「ひる」も食糧である太陽へと、宇宙船に誘導されながら向かうのだが、途中で"ひる"が太陽を食い潰してしまう危険性が発覚した為に、宇宙船の進路を変えて、危機回避。しかし、宇宙船と接触した"ひる"は、オドネル将軍が事前に宇宙船に仕込んでいた水素爆弾によって、宇宙空間にて四散爆発。分裂した"ひる"及び細胞達は、次なる食糧にありつける日を待ち侘びると云う、世紀末なエンディングに戦慄です。その分散した大量の細胞達がいつの日か食糧を求めて、エネルギーを吸収し、再び巨大化したら…?ただでさえ1つの"ひる"を対処するのに多大な労力を費やしたのに。(絶望) "バルンガ"は此方に感情や表情を一切見せませんが、"ひる"は度々独白します。いきなり、「これこそ、食物の真の味だった!」とか言い出します。特筆すべきは、平均して散らばっていた星を"ひる"が食い荒らした為に、全宇宙の星が恐怖に襲われ、互いに寄り添った結果、銀河系が生じて、星座が形作られたと云う、何コレファンタジー。(笑) 「ひる」が発表された1952年は、人類が初めて水爆実験を行ったアイビー作戦の年。奈良丸博士がバルンガに称した「神の警告」とは、水素爆弾を用いてバッドエンドに陥った「ひる」にも通ずる言葉です。そんな感じで、「ひる」との出会いは、新たに「バルンガ」の秘めたる魅力を顕在化させる好機だったのですが、"「バルンガ」の元ネタは「ひる」"だと云う、情報のソース元は一体どこなのだろう。(有識者の証言なのか?僕の貧弱本棚の中一通り見たけど、それらしき記実は見当たらなかったぞ。)

 

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↑ 三代目菓子を売らずに芸を売る。奈良丸博士役の青野平義氏に関しては「追想 青野平義」に詳しく書かれています。老舗和菓子屋「青野総本舗」の御長男として御生まれになった青野氏が人生を掛けた文学座やNTLの舞台に関する事から、珈琲喫茶「ルバイヤット」時代、父との葛藤や終戦後の事、プライベートについてまで隅々と。

 

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↑ 先日、六本木・麻布にある「青野総本舗」へ。上の「鶯もち」は、"楽屋でも汚さず食べられる菓子を"と、俳優ならではのアイデアで、青野氏が考案した和菓子。(美味しかったよ!)

 

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↑ 『ウルトラQ』のLDジャケット。開田裕治先生の絵で一番好きな「バルンガ」。やっぱ奈良丸博士は最高だぜ!