これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

漫画『ウルトラビギス×ウルトラゴッカム』円谷一平

 

とつじょ!!ああ・突如!!僕はトンデモナイ怪獣に出逢ってしまったようだ。52年の時を経て、暗闇から大胆にヒトデ怪獣とゴキブリ怪獣が蘇った!以前から愉しみに待ち焦がれていた「ウルトラ大怪獣シリーズ『ウルトラビギス×ウルトラゴッカム』」まんだらけコンプレックス10周年記念で11月24日に発売となり、早速入手・読了致しました。「ウルトラ」「円谷」「一平」「大怪獣」の単語を目にして先ず想起するのは満場一致で『円谷プロ』か『ウルトラQ』だと思うが、「円谷一平」と云う名義は橋本将次氏のペンネームの一つであって、残念ながら(?)、円谷プロは一切関係御座居ません。特撮研究家の木之下健介氏が、特典の解説書の中でペンネームに関して、『ウルトラQ』の「戸川一平」からの引用ではないかと云う言及と、"主人公の「万城目淳」よりも三枚目の「戸川一平」の方が子供受けする"と云うのは、御推察の通りだろう。しかし、一平くんは三枚目ではない。二枚目半である。本作は、日の丸文庫より1966年4月~7月に掛けて発行された貸本漫画「ウルトラ大怪獣シリーズ」(全4冊)から、4月発行の第1弾『ウルトラビギス』、5月発行の第2弾『ウルトラゴッカム』、計2作品が併録された復刻本。1966年1月2日から放映開始された『ウルトラQ』の高視聴率・版権グッズ大繁盛に便乗する形で刊行したと云うのが想像に難しく無い。何というか、スゴイ悪質。当時「ウルトラQの漫画」だと信じて手にした少年達もいたのではないだろうか。赤と黒コントランスが眩しい復刻の表紙に添えられた「監督 円谷一平」「円谷一平空想特撮奇談」の作品に対する悪戯心と愛情が滲む細工が秀逸な見栄えを演出している。※以下、ネタバレし過ぎています。

 

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『ウルトラビギス』は、ヒトデの怪獣です。ゲボラじゃないよ。世界的に有名な三木研究所の傍に構える窪倉研究所で保護していた「ビギス」と呼ばれる変体ヒトデが、窪倉博士の打つ注射によって巨大化し水槽から逃亡。間も無く発生した犬の怪死事件を皮切りに展開される人類対自然の闘いを描いた作品。先ず、ビギスヒトデの最初の被害者となる犬の名前が「クロー」っておい。ウルトラQに肖った前提であるとするならば、「鳥を見た」で登場したラルゲュースの名前「クロオ」が想起されるし、『ウルトラビギス』執筆の時期が1966年3月頃と推測されている為、同年3月20日に放映された「鳥を見た」を観賞した筆者が「クロオ」を犬の名前に引用したのかも知れない。変体ヒトデ・ビギスが発生したのは、三木真珠養殖場にヒトデの大群が襲来し、真珠貝が全滅寸前に陥った背景がある。"養殖"なんて言葉は綺麗ですが、実際問題、人工的に繁殖させ飼育しているのだから、残酷な行為だと思う。真珠と云えば宝石。本作に登場する三木真珠株式会社の社長の容姿は心無しか利己主義な姿勢が前面に伺えて醜悪に見える。真珠養殖場に襲来したヒトデの大群、そしてビギスヒトデの出現は、自然の掟に背く養殖と云う人間の利己主義な行為への反発にも思えて他なら無い。物語の大筋は、真珠養殖場で犬が巨大ヒトデに捕食される怪事件が発生。→犯人の正体は研究所で保護していたビギスヒトデと発覚。→更なる巨大化と世間体を恐れた三木真珠株式会社は従業員総出でビギスヒトデを捜索するが、発見に至らず。→一ヵ月の沈黙を破って益々巨大化したビギスヒトデが愛知県渥美半島に上陸し、伊良湖燈台を破壊。田原市から岡崎市へと放射焔を吐き、街を破壊しながら突き進むビギスヒトデは岡崎城の破壊を最後に制止。体から放射能を噴射し始めた。→中部第四管区司令部より出撃命令を受けた浜松航空自衛隊が出撃し、岡崎城に制止中のビギスヒトデを攻撃するが、逆上したビギスヒトデが名古屋市を襲撃し、愛知県全域を壊滅に導いた。→しかし、名古屋市街に居る筈のビギスヒトデが三重県の尾鷲港で捕獲される。実は、愛知全域を破壊したビギスヒトデだと思われていた大怪獣は、色やイボの具合からして別個体である事が発覚。→街を破壊した大怪獣はビギスヒトデの親玉である事から「ウルトラビギス」と命名され、捕獲したビギスヒトデを研究材料にし、ウルトラビギスの退治法を研究。→水素硝酸液を注入したアワビ貝をビギスヒトデに与えると溶け崩れた為、アワビ貝の代わりに合成樹脂で製作したマンモス貝に水素硝酸液を注入。マンモス貝を飲み込んだウルトラビギスは忽ち溶解し、再び平和が訪れたのであった。二匹の巨大ヒトデは、兄弟若しくは親子でしょうね。ビギスヒトデが犬を捕食した描写はショッキングですが、彼にとってはただの食事。本能ですから仕方ありません。他は、至って大人しく描かれています。尾鷲港で捕獲され檻に監禁されている場面なんか、円らな瞳が可愛らしくさえ思えてくる。ウルトラビギスは御母さんで、迷子になったビギスヒトデを探し求め愛知県上を彷徨い歩く。破壊行為は、不安な感情と拉致した人類への怒りの顕在化……とか、勝手に存在しない設定を空想して愉しませて頂きました。ただ根拠として、色形が違うのは「子供」と「大人」の違いであるとか、ビギスヒトデには無かった怨念の様な渦巻くオーラだとか、ビギスヒトデが溶解した後に"子の死を察知したかの様に"暴れ出したウルトラビギスには、違和感を感じたのであった。二匹の巨大ヒトデの書き分けも見物で、ビギスヒトデに比べてウルトラビギスはイボの凹凸が発達している。最後に、窪倉博士の助手・米川が巨大ヒトデに関して「数億年前に生息していた棘皮動物科に属しているビギスと呼ばれる変体性ヒトデ」だと推測され「今日まで仮死状態にあったものが海底の大爆発の様な激しい衝撃によって蘇生」したと発表。確かに、ウルトラビギスが放射能を放出する生態からして、ビギスヒトデの発生は、海底の核爆発が原因でしょう。ビギスヒトデの見た目に生理的嫌悪感を抱くのは、ヒトデと名乗るにしては不自然に飛び出している異様な目玉のせいだろうな。ウルトラビギスに限り、口から放射焔を吐いたけど、目から怪光線も出す。ナメゴンみたい。と云うか、ナメゴンだよね。深海は未だに解明出来ない部分から宇宙同様に謎が多く、数億年前じゃなくとも実際にビギスヒトデみたいなナメクジとヒトデの間の子みたいな生物が現存してるのかも知れない。ウルトラビギスの破壊描写はダイナミックで壮大。故に、対なる制止した時の不気味な沈黙と、物言わぬビギスの圧迫的な存在感が発揮された様に思う。

 

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↑ 『ウルトラビギス』(右)と『ウルトラゴッカム』(左)に共通する問題の核心は、大自然の脅威から見た人間の罪科。

 

続いて『ウルトラゴッカム』の方は、ただの巨大ゴキ…いえ、立派な大怪獣様…と呼ぶには、誤解が生じてしまうだろう。まァ要するに、ただの巨大ゴキブリなンですが、大東京の塵芥大処理場から、とつじょ!!ああ・突如!!(←兎に角このフレーズが御気に入りな僕ちゃん)空天に飛び出した全長250m、幅70m、最大秒速マッハ5のゴキ…大怪獣、その名は「ウルトラゴッカム」。そもそも、ゴキブリに嫌悪感を抱いている人間多いですよね。本作に登場する人物も、ゴキブリを忌み嫌い「害虫」と呼ぶ。僕はゴキブリから直接的被害を受けた事が無いので、ゴキブリ嫌いになる理由が無いと云うか、ふいに出くわしても小さくて可愛いナ~と放置(絶対よくない)してしまう。だから、ゴキブリを発見して奇声を発したり狂った様に殺そうとする人の気が知れないと云うか。ゴキブリよりおめえの方がこえーよ。と思うね。からしたら地球上で一番の害虫は人間だと思うけど。表紙絵は、堂々と東京上空を旋回する様子が描かれていますが、作中に登場するゴッカムは表情は皆無に近い。見た目こそ、我々人類が見慣れたゴキブリの容姿ですが、巨大化する事による存在感と、数十万ボルトの電気を体内に貯蔵しており、一気に貯蔵したエネルギーを爆発させる事が出来る脅威的な特性は、ウルトラゴッカムの魅力だ。そして何より「ウルトラゴッカム」の要点は、ゴッカムの襲来を予言する一人の少年・平太が握る。物語は、平太少年の予言が現実に反映される形で展開されていくのだ。ゴキブリの大怪獣が東京の塵芥大処理場から出現し、東京タワー、清州橋、大ビルを次々に破壊する夢を見た平太少年は、飛び起きてからも目の前でビジョンが投影されているかの如くゴッカムが、国会議事堂を破壊すると予言。→異常な様子に心配した両親が医者に連れて行くが「キチガイ」呼ばわりされ、相手にされなかった。→取り憑かれたかの様に、予言を続ける平太はゴキブリの幻覚に襲われ状態は悪化する一方だった。→尚も大衆の前で予言を語る平太の前に、東京都の衛生局員を名乗る男が現れ、夢の島へ薬物散布に行った際に"1メートル以上あるゴキブリを数百匹蠢いているのを目撃した"のだと平太に告げる。→平太の予言が遂に現実となった。ゴッカムの先陣として、推測1メートルの巨大ゴキブリが大群で新橋の屠殺場を襲撃。→東京上空を巡回すると、何事も無かったかの様に夢の島へと戻っていった。→続いて「超巨大ゴキブリが襲来する」のだと云う平太の予言通り、ウルトラゴッカムが夢の島から飛び出した!敏速に飛び回り都市破壊をするゴッカムは、国会議事堂の天辺に止まったまま、1週間が経過する。→防衛省がゴッカム対策を考案する中、平太が伊豆半島から東京を直撃すると云う超大型台風にゴッカムが挑戦する気配を感じ取っていた。今迄的確な予言をした平太を尊重してして様子を伺う防衛省の職員と平太を前に、ゴッカムが台風の眼に向かって勇敢に立ち向かう。→悪戦中である事を見計らって、航空自衛隊本部から第五航空隊へ台風中心付近上空への出撃命令が下る。→台風と格闘の末に満身傷だらけのゴッカムが台風の眼を抜け出した瞬間を狙って一斉攻撃を仕掛る自衛隊。弱り果てたゴッカムは伊豆半島上空にて力尽き三原山火口に向かって落ちていった。…果たしてゴッカムは絶命したのだろうか?腑に落ちない幕引き描写だ。平太が熱心な予言を辞めている所から推測すると、恐らく絶命している。しかし、三原山研究の権威的な学者が正体究明に急ぐ描写もあったりして不安な余韻が残る最期。先陣を切った大量の巨大ゴキブリ軍が未だ夢の島に生存しているであろう事実も末恐ろしい。本作に登場する「夢の島」とは、実在する東京湾埋立地を指す。巨大ゴキブリの誕生は多く語られていないが、夢の島の塵芥を吸収して肥大したと思われる。要は、廃棄物を排出し続ける人間への警鐘を打ち鳴らす為に、ゴッカムは存在し、人類の前に出現したのだろう。その意味合いの多くは、国会議事堂を破壊しなかった態度に現れている。そして此の物語を何倍も特色付け、面白くしているのは、紛れも無く平太少年の予言だ。周りに否定されながらも孤独に闘って信念を貫いた平太の強い姿勢には「予言が現実になる」と云う、非常識的なファンタジーが深刻な塵芥による環境問題を中和させた様に思う。

 

余談:出版元の「日の丸文庫」と円谷プロの関連性として、木之下健介氏が「カネゴンの繭」で、神様の御告げを聞いて居る子供達の中、カネゴン日の丸文庫出版の月刊誌「まんがサンキュー」を読んでいると鋭い御高察を解説書に寄稿なさっています。上述の繰り返しですが、本書の二作は『ウルトラQ』の人気に肖って製作された意図がある為、作中に「ウルトラQ」の名前を出したり、執筆期間に放映された『ウルトラQ』から影響を受けたであろう部分も少なからず伺える怪獣漫画では在るのですが、何より自然の脅威を警告したディープな内容と、身近な動物を怪獣化させた独創的な世界観、そして大胆なコマ割りによる壮大な迫力と臨場感、スピード感と云った漫画独特な表現方法で、映像には無い怪獣の魅力が味わえた。各作品実在する地名や場所で嫌に現実感があるのも恐怖心が一層と煽られるのかも。表紙に選抜された国会議事堂とゴッカムの対比が生む破壊的インパクトは、一度目に焼き付けたが最後……夢に出て来るぞ!