これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

『マタンゴ上映会』 特別ゲスト:久保明さん in シネマノヴェチェント

 

先日、9月17日(月・祝)に横浜のシネマノヴェチェントで開催された『マタンゴ上映会』へ御邪魔致しました。映画『マタンゴ』の上映に加えて、主役の村井研二を演じた久保明様が特別ゲストとして御登壇なされて、トークショーとサイン会が執り行われた。

 

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精神病棟の一室に監禁された青年の淡々とした独白から始まる『マタンゴ』。都会の騒音から逃れて太平洋の海原を豪華なヨットで疾走する若い7人の男女が遭難の果てに漂着した無人島。その島に生えているキノコを食したのを誘因に動物でも植物でも無い「第三の生物」に変貌していく過程を描いた怪奇SFホラーで、原作は小説家のW・H・ホジスン氏が1907年に発表した海洋奇譚『夜の声』(The Voice in the Night)。原作をSF専門誌の「SFマガジン」の編集長であった福島正実氏が、SF作家である星新一氏の協力を得て脚色、完成した作品が映画『マタンゴ』である。これを機に僭越ながら未読だった原作(井辻朱美氏による日本語訳)を拝読したのだが、映画とは異なる触感でした。『マタンゴ』は、悠々自適だった人間が無人島で極限状態に達した時、理性を失って権力階層の破滅を引き起こし、露骨に利己主義へと陥る人間に潜在する本性が巧妙に展開された映画で、キノコ怪人やキノコを食べてしまって変貌する人間を目撃したりと、実現する恐怖を描いているが、『夜の声』は、目に見えない虚空の恐怖だ。徐々に、そして確実に忍び寄る恐怖が、最期にドッと重苦しい脅威に制圧される結末は『マタンゴ』とも重なる。姿の見えない謎の男が重い口を開いて語る体験談こそが『マタンゴ』で若い男女が無人島の中で体験する悲劇。(...と解釈するのは個々の自由ですが) 序盤『マタンゴ』劇中で推理作家の吉田がデッキで幻覚に襲われる場面は、"暗く星のない夜"が舞台の『夜の声』の情景に近い様に思えたが、イメージされていたのか否や。映画公開の1963年当時はどうやら『マタンゴ』に登場する若者達の様なブルジョアをメディアが取り上げる程問題視されていた背景がある様で、そう云った浮かれている若者を成敗…いや、忠告として皮肉が秘められているのかも知れない。原爆のキノコ雲から想起されたと云う小松崎茂氏による不気味なマタンゴのデザインから伺える通り、反核精神は確実に根付いている。しかし、劇中の反核描写は極めて希薄、やはり本作は極限状態の絶望下で理性を失った人間の慣れ果てが興味深く、重要性を感じるのであった。

 

そんな訳で、原作『夜の声』の情景を探りながら念願の"映画館で"鑑賞した映画『マタンゴ』。ゲストの久保様も御同席の上での上映でした。実は、当日遅刻してしまって(済みません)上映中の入場だったので、久保様が同じ空間でマタンゴを御鑑賞なされているのを知ったのは終演後。初の生久保様ッ!(興奮) マタンゴ』の時は、27歳。現在は、81歳。気品に満ちた紳士的な御爺様、と云うのが第一印象だけどやはり御顔立ちも御声も面影が垣間見えて、何より目がキラキラで驚いた。肌も艶やかで綺麗。前方の席にいらして終演後に客席全体を見渡す角度に振り返って一言、「面白かったですねぇ」と御満悦の笑顔が眩しくて、トークの間は積極的な姿勢が好印象でした。トークの後、サイン会。僕は『不良少年』の台本にサインして頂いた。久保様は今回の『マタンゴ』を筆頭に数々の特撮作品他映画に多数御出演なさっているが、久保様が演じた人物像の中で僕が一番好きな役がこの『不良少年』に登場した光一役。社会から棄てられ絶望の中で青春を送る戦災孤児の光一は、大人に高飛車な態度を取る事で行き場の無い憎しみと寂しさを主張する刃物の様な少年。裏切られる事を酷く怖れていて、大人を常に不信の目で睨み付ける頭の回転が良い子でした。その痛々しいまでの尖鋭な久保様の眼差しが余りに衝撃で、たった一度だけ鑑賞した映画にも関わらず、僕は心的外傷を負ったのである。特に、自分の痰を吐き捨てて「これ、舐められますか」と教師に向けてどれだけ自分を受け入れてくれるのかと云う光一君の歪んだ態度と複雑な心情が非常にショッキングで。しかし、立場は違えど「上辺だけの綺麗事を並べやがって」と大人に牙を向ける衝動が僕の中にもあって、光一君の言動によってカタルシスを得られたのも又事実。絶望に抱かれながらも、純真な瞳で大人に苦痛を訴え掛けた久保様は当時19歳。丁度、子供と大人の間を彷徨う不安定な時期ならではの好演だったのでしょう。大人を極端に嫌悪したギラギラと鋭い当時の眼差しとは対照的な悠然とした温かい目をした久保様だったけど、何故だか少年の様な純真さも宿す御目目に心が洗われた。

 

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シャッター切る前、久保様がいきなり「ふりょ~しょ~ねん」と謎の悪い声を発しながらこれ又悪い顔を一瞬して下さったのだけど、僕がノロマでシャッター切りそびれてしまい\(^o^)/

御別れの際に、図々しく握手を懇願させて頂いたら、大きくて温かい御手手で予想以上に固い握手をギュッ!として頂いて、危うく本気で惚れるとこでした。(単純)