これでもくらえ

なにもかもウルトラQのせいだ

血を吸うシリーズ

 

「血を吸うシリーズ」 或るいは「血を吸う三部作」の愛称で名高い東宝映画『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』『呪いの館 血を吸う眼』『血を吸う薔薇』(孰れも山本迪夫監督)の感想です。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20180829221044j:plain

 

サスペンス、ミステリー、ロマン、エロティシズムが混沌とする怪奇映画、三作。第一作目『血を吸う人形』(1970)→第二作目『血を吸う眼』(1971)→第三作目『血を吸う薔薇』(1974)の順で制作・公開。岸田森様が吸血鬼役とか絶対ヤベェな(鼻息)と思って敢・え・て今の今迄観ていなかった作品。メイクとか何もしなくても吸血鬼の様に魅力的ですよね、彼。 シリーズと称されながらも話は繋がっておらず、登場人物の関連性もない異世界設定で、共通点として"血を吸う"吸血鬼と洋館が物語を彩る。そもそも当時は映画衰退期なので一作目のヒット無くして連作は実現していなかったかも知れない。主観ですが、第一作目と第二作目は内輪の生々しい愛憎劇なのに対して、第三作目だけロマン主義と云うか、生徒と教師による学園モノの甘酸っぱさ、青春を匂わす描写が異色な余韻を残した。各作品、色恋沙汰がある一方で深入りする事が無くドライなのが良い。ここで痴話を主張されてもリア充いい加減にしろよと萎えるだけだ。意識した情欲的な演出の強調も最終作が断トツ。最終作の官能美に満ちた演出を第一作の吸血鬼、小林夕起子さんの美貌で発揮出来ていたのならばどれだけ素晴らしかったろうと妄想。何を隠そう、僕が一番好きなのは一作目、原点にして頂点。一人の人間の深層を支配する救い様が無い悪夢、復讐が生んだ幸福と悲劇、伏線が縺れ合って予期せぬ結末だった時の衝撃を後の二作は越えなかった。どれが良作かと云う問題は、完全に趣味嗜好で分枝するだろう。

 

『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』:根底に流れているのは戦争の惨劇。

戦前に愛を誓い合う間柄だった医師の山口と野々村志津は、戦争が原因で破綻、志津が山口の帰りを待たずに結婚したのが要因だった。家族も全て失い、許嫁にも裏切られ、もはや復讐の為に生きるより仕方が無かった山口は、野々村一家を皆殺しするも許嫁だった志津を撃つ事は出来ず、残酷にも強姦する。そして、山口と志津の間に夕子が産まれた。その夕子が成人して恋人が出来て幸せを掴もうとした矢先の事故死。致命的な傷で助からないと分かった山口は、娘への歪んだ愛情からなのか、催眠術で死に際の夕子を蘇生させた。しかし、蘇生した夕子は山口も予期せぬ殺人鬼として最誕。ナイフ片手に人間や動物を襲い殺す。右腕が血で染まっているのは、返り血だろう。なので、ここで登場する「吸血鬼」とは隠喩。血を求めて彷徨う夕子は吸血鬼の働きこそしているが、ドラキュラの特徴や概念は殆ど意識しておらず、自身が血を吸う描写も無い。あの夕子が果たして何だったのかも不明瞭なまま結末を迎えた。印象深いのは志津が断言した「怨念であり、夕子では無い」。嘘か真か、山口が戦時中に体験した心霊体験談の中で戦死後に己の前に現れた兵隊の姿を「幽霊では無く、兵隊自身の執念」と表現しており、孰れも「人間でも幽霊でもない、宿怨の実体化」として正体不明な描写だ。てか、そもそも夕子って本当に事故死したのか?現に夕子がベッドに横たわってる死に際の描写がどう見ても事故後の様子じゃないし、山口も本当に医者だったのか?異常な家族過ぎてもう何も信用出来へん。最期、志津の啜り泣きは館に響いていた女の鳴き声と重なる。志津の涙の正体は、真に愛娘を偲ぶ情なのか、互いの不幸を憐れむ情なのか。独特な泣き方に不吉な余韻を感じてしまった。殺人を犯してしまった右腕こそ干乾びたが、美貌を保った死に顔は自身の運命を素直に受け止める純真ささえ伺える。全体を通して、見物は絶対的信用のあった医者の山口の立場が非道な基地外に逆転する痛快なスリリング。患者に医療を提供する立場の人間が殺人鬼を産んだ背徳感と皮肉が、世の中の矛盾と理不尽を提示している様にも…。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20180830234841p:plain

 

『呪いの館 血を吸う眼』:甘美な悪夢、そしてカインコンプレックス。

前作の主役は恋人同士だったが、今回は姉妹に焦点を絞っている。兄弟が居ると其れ成りに両親を兄弟に取られまいと確執に翻弄された過去が、いや、現在進行形で兄弟をライバル視している人は意外にも多いだろう。無条件に両親に愛されようとする無邪気で純白な感情から生まれる独占欲と云う醜い欲望の深層を秘かに追求している一作で、物語の核は多感な幼児期のトラウマ体験から展開されていく。5歳の時に見た忘れらない恐怖の幻想に悩まされる秋子は、3つ下の妹・夏子と同居していた。恋人の佐伯の協力を得て悪夢の本質を辿る過程で、悪夢と同時に蘇る姉妹間の悶着。浮上した吸血鬼の発生源。前作、隠喩的だった吸血鬼は今回歴とした吸血鬼の隔世遺伝を受け継いだ綿密な設定の上で活躍する。しかし、実態は明らかな一方で鏡や写真には写らない空漠たる描写も。(佐伯が無遠慮に「吸血鬼ごっこしてるキ〇ガイ」と指摘してて笑った。) 実際の吸血鬼だと捉えながらも、前作の伝承として催眠術によるトリック説も加味されて、意識的に解釈の幅と余地を提供している様だ。吸血鬼の黄金に輝く目は、前作の設定を伝承しているならば、催眠術だろう。にしても、吸血鬼(25)が幼女(5)を花嫁に御所望とは……。こ、このロリコン吸血鬼めがあッ! 厳然たる姿勢で洗練された森様の吸血鬼は壮絶な迫力と圧倒的な存在感で度々歯を剥き出す仕草と呻き声、人間離れした形相は狂気に満ちてギラギラしているのに死を想わせる冷たい目、最期の断末魔は森様特有の持味と演技の才能に目が眩む。吸血鬼パパ(人間)の手が抉れるショッキングな演出が痛々しい。それにしてもパパちゃん良く生きてたな?

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20180830235004p:plain

 

『血を吸う薔薇』:吸血鬼夫妻の悲恋。(ポロリもあるよ)

学園が舞台で女子大生が御飯だからなのか、血を吸う位置も首筋では無くて胸元。乳首普通に出まくり。吸血中の生徒の恍惚とした表情も色気があって、露骨に情欲を煽る演出が目立つ。前述の様に、第三作だけ異色と云うか青春学園のテンプレ「教師と生徒の恋情」が嫌に匂うンだけど、キャピキャピしてる若い女の子に反して教師は至って冷静沈着、理性的な御蔭で崇高な世界観を保守出来たと思う。東京から長野の伝統ある聖明学園へ次期学長候補として就任した教師の白木が学長邸に泊まった晩に夢の中で、死んだ筈の学長夫人と胸に二つキリで刺した様な傷跡のある少女と出会う。その夜から不可思議な事件を目の当たりにした白木は、妖怪伝説に詳しい下村から実存する棺に纏わる200年前の伝説を白木に語る。「神を棄てて鬼(=吸血鬼)と化した白人の男が、15歳の少女の血を吸って殺害を犯すも、どういった力なのか少女が吸血鬼として蘇生。それを知った世間の人々が巨大な棺に二人を封印した」と云う御伽噺だった。白木の前に学長候補だった男が発狂して精神病院に入る前に残したメモ書きをヒントに現学長夫妻の存在が重なった白木が下村と共に事件を追求、学長夫妻が女生徒を血を吸い、最終的には肉体に憑依して生命を永らえてきた吸血鬼だった。そして吸血鬼は白木の肉体に魔の手を差し伸べ…つまり次期学長任命とは、生贄の暗喩。前作と異なるのは、吸血された人間は衰弱して人は襲うけど、吸血鬼には成っていない。と云うより、完全に吸血鬼になる前に発狂して大事に至っていないだけかも。(=人間としての意思が残留していてせめてもの抵抗で自殺するのか?)そして、一作目と二作目に伝承された催眠術といった非科学的な要素は無く、不透明な伝説を背景に置いた。タイトルにもある「薔薇」、吸血鬼式の生贄の通告(?)として、白い薔薇の棘が刺さって薔薇が赤く変化する演出は、まるで吸血鬼の白い牙が血に染まる様で妙に美しく印象深い。伝説に纏わるからだろうか、樹海での吸血鬼による吸血シーンは純愛のキスシーンの様にロマンティックに演出された。森様の吸血役は人間臭さを匂わさず、完全に悲しい吸血鬼の魂と同化しており、作中に漂う幽玄な世界観は彼の存在無くしては表現出来なかったと思う。対称的な黒沢年男氏との相性の効果もあるだろうが。何故、吸血鬼夫妻は若い生命を犠牲にしてまで生き永らえてしまったのか、人間への復讐心だったのか、生への執着だったのか。醜い心が生んだ幻想物語の結末は悲惨だったが、夫妻は死を迎えた事により執念から解放された。深層部で「やっと死ねた」一作目の夕子の心情と繋がりを持って血を吸うシリーズは終結を迎えたのである。一番恐怖心を覚えたのは、吸血鬼の正体は学長では無いかと白木が告発するも誰も信用せず、逆に白木が犯人だと濡れ衣を着せられてしまう一連。化けの皮を被った人間から得る醜悪が、皮肉にも吸血鬼の脅威を上回った。

 

蛇足ですが、全作が揃ったDVDボックス「血を吸う箱」のオマケだった森様吸血鬼の貯金箱が最高だからみんな見て。

 

f:id:zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz:20180830233301j:plain

 

塗装でだいぶ昇華しそうな造型なので、一概にチープだとも云えない。しかし、リアルでもない。箱に「岸田森演ずる吸血鬼」とあって一応岸田森グッズなンですよ。ファンの人、いいの?これで。そこら辺のオッサンが「こら!」って吠えてる形相だよ?ゼンマイ式の貯金箱でコインを置くと棺の中から手でコインを引き摺り込む仕組みです。

 


血を吸う箱

 

想 像 を 絶 す る 疾 走 感

 

何が怖いって、ゼンマイの音だよ。(煩い)

 

 

  

血を吸う箱 DVD-BOX

血を吸う箱 DVD-BOX