これでもくらえ

独断と偏見で意見具申。主に鑑賞記録。日々研究。

映画「脱獄囚」(1957年 東宝)

 

鈴木英夫監督、映画「脱獄囚」の感想です。

神保町シアターにて鑑賞。

 

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ー 死刑囚である田畑(尾上九朗右衛門氏)、戸川(田島義文氏)、山下(佐藤允様)の三人が真夜中に脱獄した。

三方に分散した内二人は再逮捕と成るが、最も凶悪犯罪者である山下のみ、田畑から買ったピストルを片手に逃亡を続ける。

逮捕前、山下には出産を控えた恋人・千代(岸田翠氏)がいた。千代は山下の死刑判決を聞いて憂戚し、自殺したのだ。

復讐心に支配された山下は、死刑判決を下した判事の自宅へ巧みに侵入し、妻を射殺。

続いて、山下の身柄を確保し逮捕に至った星野刑事(池部良氏)をターゲットに、妻である節子(草笛光子氏)の命が狙われるのだが……

 

いやー、拘束される土屋嘉男とかやめて下さいよ(萌えた)

 "脱獄囚"と一瞬にして判断出来るトラックに乗車した御三方の威圧的な風貌がスクリーンに映った冒頭から結末迄、絶えずして緊迫感漂うサスペンス映画。

復讐を誓った脱獄者・山下と、山下を再逮捕すべく職務に全うする星野刑事を始めとする捜査チームの追走劇…と思ったら、大間違い。

犠牲の拡大を考慮して妻である節子を囮にするか、将又妻の安全を優先して妻を避難させるか……職務に全うするが故に妻を囮にした罪深き星野刑事と、夫へ僅かな疑心を抱き怯えながらも夫である星野刑事に協力する節子……揺れ動く二人の心理描写が繊細。

星野刑事は残忍だ。私は残忍な男はどちらかと云えば好きだが(え?)こういうタイプはどうも見ていてイライラする。まァそんな話はどうでもいい。

つまり、星野刑事の妻への愛情と云うものを一切感じられなかったのだ。冷静沈着で、職務に専念するばかり、"妻<仕事"としか受け取る事が出来なかった。

逆に、節子の夫に対する一途な愛情が大変綺麗に描かれている様に思えた。

常に夫の傍に寄り添って顔色を伺い、異変を直ぐに察知して、命を懸けてでも夫の手助けの努力を顧みらない、強くて賢くて美しくて温かい女性像を見事に好演なさった草笛光子氏に惚れ惚れしてしまったのは言うまでも無い。

草笛光子氏と云えば、悪女のイメージが強かった自分だが、これがギャップ萌えと云うやつだらうか?

 

そして語らずにはいられない佐藤允様演じる凶悪犯・山下。

逮捕時のパトカー内でシャツが破けて麗しの素肌がむき出しになったのを私は見逃さなかったぞ・・・(鼻息)

死刑を待つのみの身を意趣晴らしに捧げたにも関わらず、呆気無い結末。(ピストルを隠し持っていたのには感心。いつの間に拵えた?)

逮捕に関わった張本人等では無く、妻を殺害する手段で「自分と同じ目に合う」事を望んでいたのだろう。

と云うか、そもそも死刑囚になった経緯が気に成る。劇中には"二人殺害により死刑"とあるが、なんで二人も殺害しちまったんだ山下さんよお

突き刺さるようなギラギラとした眼差しで正に"凶悪"といった代名詞が御似合いな顔立ちで威嚇する佐藤允様だったが、星野家の案内を務めた情婦や隣家と会話を交わす場面で魅せた、犯罪者の顔では無い、朗らかな好青年の顔付きへの転換は目を見張る程だった。

星野刑事と山下は似ている。目的の為ならば手段を択ばず、両者共使命に全うしているからね。

 

そして全体を通して印象深いのは、モノトーンを駆使した芸術極まる照明や撮影。

中でも釘付けとなったのは、自身が囮と察した節子に対して星野刑事が寝室で事情説明する場面のシルエット。

複雑な心境で見つめ合っているであろう、二人の表情を露出しない監督のセンスに脱帽。

クライマックスの闇に潜る山下と節子の密室で展開される生死の掛け合いが、全篇に張り巡った巧みなカメラワークの集大成に感じた。

 

私的MVPは、木崎刑事(土屋嘉男氏)である。

人道的で正義感が垣間見えてて、純粋無垢な眼差しが愛らしかった。

物語に新展開を与えた人物として、実は一番職務に忠実な刑事だったのかも知れない。